受精卵を利用せずにES細胞を作る技術が出来た!

報道によりますとアメリカのハーバード大学の研究チームが、ES細胞(幹細胞)と皮膚細胞を利用してヒト胚性幹細胞*1と同様の能力を持つ細胞を作る技術を開発したということです。今月26日付のアメリカの科学誌『サイエンス』に掲載される予定の論文で発表されるもので、サイエンス誌では反響に答えるためネット上に発表したと言うことです。
細胞は成長の過程で「分化」を行い、一度分化した細胞は他の細胞に変わることはできません。また、通常の細胞には細胞分裂が出来る回数に限度がある為、一度成長してしまった人の細胞を使って、その人の臓器を作ることはできません。これに対し、ES細胞は他の細胞に分化する能力と、無限に近い分裂能力を持ってます。つまり、ES細胞を利用すれば、その人の遺伝子を利用した臓器を自由に作ることができ、拒否反応のない臓器移植などが容易になります。
今まで、ヒトES細胞を作るには、ヒトの受精卵(卵子精子が結合したもの)が必要で、不妊治療で使用されたなかった受精卵などを利用していました。ただし、受精卵は本来、そのまま成長すればヒトになったであろうものなので、これを利用することには大きな倫理的な問題がありました。受精卵を利用せずにES細胞を作ることができれば、ES細胞を利用した研究が進むことが期待されます。
ただし、今回の技術で作られた細胞は染色体の数が通常細胞の2倍であるなど、不完全な点もあり、今後の成果に期待します。
今回は主に、時事通信と読売新聞の記事から得た情報を元に書きましたが、共同通信の見出しが秀逸だったので紹介します。

皮膚細胞に万能性 ハーバード大の研究チーム(共同通信/gooニュース−2005年8月23日06:03)

皮膚細胞が万能になったのではなくて、皮膚細胞にES細胞をくっつけたものが万能になったのです。皮膚細胞自体は分化しているので、培養しても皮膚細胞にしかなりません。逆に、ヒトから細胞を採取する際に皮膚細胞が一番採取しやすいのであって、利用する細胞は必ずしも皮膚でなくてはならないということは無い…と思います(分かりませんが)。「皮膚細胞に万能性を持たせられた」ということなのでしょうが、「皮膚細胞に万能性があった」みたいに意味がとれます。
記事中で「万能性」という言葉を使うのも、どうかと思います。様々な細胞に分化可能な細胞であると言うことから「万能性を持たせることに成功した」と、そういう表記になったのでしょうけれど、ES細胞ES細胞と同等の能力を持つ細胞に「万能」は違うと思います。

*1:ヒトの胚から取った幹細胞のこと。着床前の胎児の細胞