読売新聞誤報?『識別番号同じ「クローン携帯」不正使用をドコモ初確認』

読売新聞は2006年11月23日付の朝刊で、携帯電話各社が存在を否定してきた「クローン携帯」について、NTT DoCoMoが不正使用を確認したという内容の報道を行いました。「クローン携帯」とは、正式に契約されている携帯電話と同じ電話番号を持つ携帯電話のことで、クローン携帯の利用者は正規の利用者に無断でクローン携帯を利用することができ、クローン携帯の利用料金は正規の利用者に請求されるといわれています。一部の携帯電話利用者から、利用していないのに高額な電話料金を請求されたとする主張があり、実証実験が行われるなど一時は軽い社会問題となりました。
携帯電話各社は「クローン携帯」の利用・製造は原理的に不可能であると主張しています。携帯電話の端末には固有の番号*1と認証キーがつけられており、この認証キーは暗号化されています。携帯電話会社では携帯電話端末の固有番号と認証キー、携帯電話番号の一覧のデータを所持しており、固有番号と認証キー、電話番号が同じであるか確認しないと通話できない仕組みになっています。このうち、固有番号は挿入されているカードを入れ替えることで、電話番号は端末の設定を変更することで変更することができますが、認証キーは内部の部品を直接いじらないと変更することはできません。「クローン携帯」では、特殊な方法で認証キーを変更した携帯電話が利用されているとされていますが、認証キーは暗号化されており、複製は不可能だとされています。
今回読売新聞が報じているのは、認証キーと固有番号と携帯電話の番号が同じであるか確認するべきところを、海外の一部の機器で確認が行われない設定になっていたもので、以前解約された携帯電話が持つ固有番号と同じ固有番号を持つ端末を利用していた利用者に料金が請求されてしまいました。認証キーを解読し変更されたいわゆる「クローン携帯」とは異なります。NTT DoCoMoでは、2006年2月までに6件の発生を確認しており、お詫びの上で通話料を返還しているということです。また、確認を行っていなかった機器の設定を変更させるとともに、NTT DoCoMo側でも確認が行われなかった通信は接続を拒否するようにしたということです。また、解約後の固有番号の使い回しについても取りやめるとしています。
誤請求があったのは、当然問題ですが、読売新聞勇み足。理屈では、この方法では通話はできないのですが、外国の一部地域では誤って通話できてしまったと。問題は携帯電話ではなく、交換機。(というか、読売新聞の記者が「クローン携帯」の定義を知らなかったんだとは思うけれども。)

識別番号同じ「クローン携帯」不正使用をドコモ初確認(読売新聞)
 NTTドコモの第3世代携帯電話「FOMA(フォーマ)」から抜き出したICカードを、別の携帯に差し込んで「クローン携帯」を作る手口で、中国など海外から不正使用したケースが少なくとも6件あったことがわかった。
 ドコモはこれまで、「クローン携帯の製造は技術的に不可能」としてきたが、社内調査で存在が確認された。
 ドコモは、この6件で通話料を過大請求されたユーザーに計約26万円を賠償し、再発防止のためシステムを改修したという。
 クローン携帯による不正使用について、ドコモ、KDDIソフトバンクモバイルはこれまで「不可能」としてきた。しかし今回、初めて確認されたことで、ドコモは公式見解の撤回も含め検討している。
 ドコモによると昨年9月、「知人にかけたら外国人が出た」との問い合わせをきっかけに調査を開始。日本と中国でほぼ同時に通話したことになっているなど不自然な通話記録が見つかり、2005年8月〜06年2月の間の、中国、フィリピン、ガーナでのクローン携帯使用が確認された。
 FOMAのICカードには、所有者を識別する15ケタの番号が割り振られているほか、認証のための各種情報を暗号化して記録している。すべての情報が一致した場合だけ交換機が通話を受け付けるため、ICカードを別の携帯に差し替えるだけでは使用できない仕組みとなっている。
 今回確認されたクローン携帯では、いったん解約されたFOMAのICカードが使われていた。しかし、中国などの電話会社の交換機は、各種情報をすべてチェックする設定になっていなかったため、通話が出来てしまったという。
 また解約されたFOMAのICカードの識別番号は、解約後2年程度で「再利用」されるため、不正通話による料金が別人に請求されていた。
 ドコモでは今のところ、不正使用者の特定や、刑事告発などは行わない予定という。
 ドコモは今年2月、数億円をかけて国内システムを改修したとしている。また解約されたICカードの識別番号は再利用せず「使い捨て」にする方針。

2006年11月23日
読売新聞「クローン携帯初確認」との報道について(NTT DoCoMo
 11月23日付けの読売新聞朝刊にて「クローン携帯初確認」との誤った報道がなされております。この事象は、海外の携帯電話事業者との相互接続(国際ローミング)で海外において通話を行う際、海外の携帯電話事業者側の交換機が認証行為を実施していなかったことにより発生した誤接続・誤課金であります。
 いわゆるクローン携帯の製造は、技術的に不可能との認識は従来と変わるものではありません。
 お客様にご心配をおかけした事をお詫びするとともに、本件に関わる事実をご理解いただくようお願い申し上げます。
【発生した事象】
 報道された事象は、海外の携帯電話事業者側において交換機での認証をしない設定になっていたため、解約済みFOMAカードが挿入されたと推定される携帯電話から海外で発信した際に通話できてしまった事象です。
 なお、本件は海外のパケット通信ではなく音声通話で発生したものであり、2006年2月以降、同事象は発生しておりません。
 2005年9月に当社としてこの事象を初めて確認し、海外との全通話を監視した結果、2006年2月までに6件の発生を確認いたしました。本事象に該当されるお客様には、お詫びの上対応し、通話料の返還をさせていただいております。
【発生原因】
 携帯電話では、電話番号以外に携帯電話事業者が管理運用している個別の番号(IMUI)があります。この個別の番号と、端末とネットワークがそれぞれ持つ認証キーによって、携帯電話の接続に関する認証を行いますが、海外事業者の一部の交換機において例外的にこの認証を行わない設定になっており、かつ解約済みのFOMAカードに書き込まれているIMUI番号と同じIMUI番号が契約中の状態であったため、通話を接続してしまったことから、本事象が発生したものです。
【対処】
 当該海外携帯電話事業者に対し個別に交換機での認証を実施するよう依頼するとともに、国際会議においても、この事象を報告し、注意喚起、および改善依頼を行っております。
加えて、ドコモ側においても、2006年2月に正しい認証手続きを行わない交換機については、ドコモ側交換機で接続を拒否する機能を付加するとともに、この事象を継続して監視する機能を追加し、監視確認を行っております。

*1:NTT DoCoMoのプレスリリースでは「IMUI」と呼ばれている