「ゆとり教育」で学力向上?
1970年代頃、日本の教育現場では『暗記』が中心の「詰め込み教育」が主流でした。ところが実生活には役に立たない知識の詰め込みや大学入試での難問・悪問の頻出など様々な弊害が生じたため、反省の意味を込めて1980年代から開始されたのが「ゆとり教育」です。当時の文部省は児童生徒が学習する内容を定める「学習指導要領」を改正し、「生きる力を養う」ためとして、学習内容や授業時数の削減が行われました。
「ゆとり教育」の集大成とも言えるのが1999年に行われ、2002年度から実施された学習指導要領の改正です。この改正により完全週休5日制が導入され、数学では3.14で計算していた円周率を「円周率は3」として計算する様になりました*1。
「ゆとり教育」については、様々な方向から「学力の低下」を懸念する意見が出ていましたが、2003年にOECDによって実施された世界的な学習到達度調査「PISA」にて、日本の順位が落ちたことからマスコミなどで『学力が低下した』と報道され、「ゆとり教育」=「学力の低下」という図式が趨勢となりました。実際には、調査参加国が増えたことが順位低下の原因であり、ゆとり教育導入後に日本の成績自体は下がったという事実はないのですが、当時の中山成彬文部科学大臣が「ゆとり教育は、学習塾に通わない限り、充分な基礎学力を得られない教育だった」などと、さもゆとり教育が学力低下の原因であるように訴え、マスコミも恣意的な報道を続けたために歪曲された事実が広まってしまいました。なお、当時の中山成彬文部科学大臣は、やや変わった考えをなさっている方です。
- 2005年3月6日の日記
さて本日2007年4月13日、2002年度に学習指導要領が実施されてから初めて高校3年生を対称に文部科学省によって行われた教育課程実施状況調査の結果が発表されました。教育課程実施状況調査は小中学校では1981年から実施されているのですが、高校では2002年から行われているそうです。今回結果が発表されるのは2005年秋に行われた調査の結果です。問題数は657問で、うち181問は前回の調査と同じ問題だったと言うことですが、前回の調査より正答率が下がったのは10問だったのに対し26問では正答率が上がったと言うことです(残りの145問では統計上有意な差はなかったとのこと)。また、同時に行われたアンケートでは勉強に対する意欲向上が見られたと言うことです。なお小中学生を対象に行った調査でも同様の結果が見られると言うことです。以下、各社の記事から引用しました。
- 時事通信 高校生も学力上向く=「勉強大切」増える−「ゆとり」指導要領で初・学力テスト
- 正答率は改善傾向を示しており、文科省が授業時間増などを柱に進めている指導要領の改定作業にも影響を与えそうだ。
- 朝日新聞 高3学力テスト、「ゆとり世代」で結果改善 文科省
- 学力や意欲は落ちていないという今回の結果は、こうした動きに一石を投じそうだ。
- 毎日新聞 <ゆとり教育>学力は「改善の方向」 文科省調査
- 旧指導要領で学んだ児童・生徒よりも正答率が向上傾向にあり、授業時間の増加などが盛り込まれる見通しの次期学習指導要領の改定作業に影響しそうだ。
- 読売新聞 学力低下に歯止めの兆し、「ゆとり教育」下で初の調査
- 旧指導要領での前回調査(02、03年)と比べると成績はわずかだが上昇し、懸念された学力低下に歯止めの兆しがみられた。
- 産経新聞 15万人「ゆとり」高3調査 学力低下歯止め? 記述力いぜん不足
革新派の新聞は「学力改善」を強調、保守派の新聞では「歯止めの兆し」或いは「歯止め?」となっています。保守的な立場を取るならば「ゆとり教育」は受け入れられないと言うことなのでしょうか。
2007年4月13日・伊吹文明文部科学大臣「学ぶ意欲が高まっているのは良いが、ゆとり教育の影響かは分からない。前回より良かったが、プラスに向かっているかは分からない。国際比較をしないと断定できない」「小中の全国学力テストの結果も見たい。中央教育審議会に報告したい」
伊吹文明文部科学大臣は自民党伊吹派(志帥会)の会長ですね。京都大学経済学部→大蔵省→大蔵大臣秘書官→自民党から衆院選に出馬し現在連続8期当選中。経済が専門みたい。短絡的にゆとり教育の影響だと言わない姿勢は慎重だと思いますが、「国際比較しないと断定できない」というのはどういう意味でしょうか?