消えた年金2,000万件

2007年12月12日、厚生労働省は推計で1,975万件の年金記録について被保険者と結びつけることが困難であると発表しました。ここでは事の経緯を順を追って説明します。
日本には公的な年金制度として、1961年4月から施行された国民年金、民間企業の労働者が加入する厚生年金、公務員らが加入する共済組合があります。当初、それぞれの年金記録は個別に管理されていましたが、1986年に基礎年金制度が導入され、国民年金が強制加入となり、厚生年金や共済年金国民年金に上乗せする形になりました。1997年1月、事務処理を効率化するために、それまで年金制度ごとに存在していた年金番号を、1人あたり1つの番号に統合する基礎年金番号が導入されました。

この時、国民年金と厚生年金など複数の年金番号を持っていた人は申し出る必要があったのですが、申し出や自動処理により統合されたのは全体の約1割で、およそ9000万件の年金記録が統合できずに残ってしまいました。

その後も社会保険庁による統合作業が行われましたが、統合されていない年金記録は2006年6月時点で約5,000万件残りました。2007年2月17日、民主党の長妻議員がこの事実を指摘、時効となり既に支払うことができない年金が存在していることなども発覚し大問題となり、2007年夏に行われた参議院選挙では与党・自民党が敗北しました。この選挙で自民党は、「1年で年金番号の統合を完了し最後の一人まで年金を支払う」と公約に掲げ、新たなプログラムを開発し年金記録の統合処理を行い、2007年12月12日時点で2,650万件の記録について被保険者の特定を行いました。しかし1,975万件の記録については被保険者と結びつけることが困難であると判明しました。うち約1,000万件はデータベースへの入力時に名前を誤って入力したり、結婚などで名字が変わった人であるとみられ、原本と照合することで被保険者を特定できる可能性があります。ただし、8億5000万件の記録がある紙の台帳のうち、1年で確認できるのは数千万件だということで特定には時間がかかりそうです。また残りの約1,000万件は原本への記入が誤っていたとみられ特定は絶望的だということです。

公約が実現できなくなった自民党ですが、年金記録の被保険者の特定が困難であるという発表が行われた後、総理大臣が「公約違反というほど大げさなものかどうか」、官房長官が「選挙ですから『年度内にすべて』と縮めて言った」、厚生労働大臣が「3月が終わればすべて年金問題がバラ色の解決ができているという誤解があった。『3月までに全部片付ける』とは言っていない」などと、相次いで公約には反しないと発言ををし、その後、選挙で配ったチラシに誤りがあったと謝罪しました。

自民党が配布したビラ。